アイ・ラブ・マイケル


ふぅ、とため息をつきながら新作映画の公開を指折り数えて待ち続けるなんてことは、最近ではめっきり少なくなりました。しかし私にとってこの監督の場合だけは特別で、インターネットの予告編を見ては、またひとつため息をつく日々です。
もちろんマイケルといっても、なんでもかんでもとりあえず大作映画にしてしまうベイさんや、勢いだけでカンヌをとってしまったムーアさんや最近めっきりみなくなったチミノさんじゃありません。男の生き様を撮らせたら右に出るものはいないハリウッド・ロス派の監督マイケル・マンさんその人です。
私はこの監督の観客にこびずに自分の男美学を貫く姿勢が大好きなんです。
上映時間は最低でも2時間半以上、女優はお新香程度の扱いで徹底した男への執着、時間の限り繰り広げられる男と男の骨太なドラマ。嗚呼、素敵、作品をどこで切っても男が出てくる男金太郎飴ような映画を撮れるのはこの人だけです。
まもなく公開の新作「マイアミ・バイス」においても、きっとその期待は裏切られることはないでしょう。
上映時間は146分とマン監督のやる気が伝わってくるようですし、「アリ」以来、監督にお気に入り登録されたジェイミー・フォックスと最近ちょっと落ち目気味のコリン・ファレルとの、男の格をかけた演技対決も見逃せません。また前作「コラテラル」でロスの夜景を美しく切り取った新開発の高感度HDカメラの映像も楽しみです。さらにフェラーリに銃に秘められた使命を持った二人の男・・・いや、もう、ほんとに待ちきれません。これを書きながらもエンドルフィンでまくりです。皆様も是非とも「マイアミ・バイス」へと足をお運びください、男のオーラがスクリーンから漏れ出すような、タフなドラマがあなたを待っているはずです。だけど興味のない人にとっては、ガンアクションだけが印象に残ってしまう冗長なまったりアクション映画なんですよね、きっと。



ドキュメンタリーとしては不満


南米の道なき道を1000マイルぶっ通しで走り続ける過酷なオフロードレース「バハ1000」に完全密着して作り上げたドキュメンタリー。50台以上のカメラと90人以上のクルーで追ったというだけあって、砂漠の砂塵の中を走り抜けるレーサー達の姿は迫力満点だ。しかしすべてがレース紹介とレース自慢に終始していて、これといった問題提起もないので少々深みに欠けるのが残念だ。

確かにスリルと興奮に満ちたドキュメンタリーではあるが、それだけじゃ映画館にお金を払って観に行く価値はないだろう。そんなものはディスカバリーチャンネルで充分だ。



個人的にまったく思い入れのないスーパーマンだけど、思ったよりもずっとよいできだったので驚いた。


さすがは「ユージュアル・サスペクツ」のブライアン・シンガーだ。

前作のスーパーマンから5年後という設定には無理があるものの、嫌味が無くうまくまとまったストーリーは良く出来ていると思う。宿敵レックス・ルーサーが何をやっているのかはよくわからないのは問題だと思うが、スーパーマンが町の人々を助けるシーンは一見の価値あり。シンガーが「X-MEN」シリーズで蓄えたCG技術を余す所なく使っている。


上映時間が2時間半以上あり、ただ特撮を楽しむだけには長いので手放しでお勧めとはいかないが、今さらスーパーマン?と思っている方は一度観てみることをオススメする。少なくとも「パイレーツオブカリビアン」や「ゲド戦記」よりはずっといい映画だ。


全身タイツにマントを羽織ったマッチョマンが空を飛ぶ姿がこれほどかっこいいとはおもわなんだ。


ハリウッド映画に毒された人間にはつらい


第二次大戦末期の昭和天皇を真っ向から描いて話題の映画が、この「太陽」だ。

天皇を描く映画ということで、日本人が撮れる訳もなく監督はロシアの有名監督ソクーロフ。一時は日本公開すら危ぶまれたが、無事公開し単館系としては異例の大ヒットとなっている。


映画の中身は作家性が強いため、エンターテイメントや史劇を求めて行った人には、涼しい映画館での睡眠タイムが待ち構えている。映画を観ているというよりは、様式美に染まった能や狂言などの舞台系術を観ている感じに近いだろう。

各言う私も中盤で一度意識を失ってしまった。ただ失う前と後でほとんど場面が変わってなかったのには、おいおいそこまでやるか、と笑ってしまいそうになった。しかしこういった映画を観るといかに自分がハリウッド映画に毒されているかがわかる。ワンシーンが長いので、カットが変わるのを待っていらずにイライラしてきてしまうのだ。これには反省した。


さて、映画を観終わった時の気持ちは、美術館へ行って高尚な芸術を見た後の、なんだかわからないけどなんだかいいものを見たのかなという、あの気持ちに非常に似ていた。

しかし、よくよく考えてみると誰も教えてくれない昭和天皇の普段の姿をこれほどの説得力をもって描き出したのには見事としかいいようがない。周りの人間は皆天皇を敬い、奉り、その実誰も天皇を理解せず孤立を深めてゆく姿に切なさを感じる。

そして、この映画をイッセー尾形抜きには語れないだろう。恐ろしいまでの様式美とそれに答えるイッセー尾形の昭和天皇はもう演技とは思えない。


硬いだけではなくておちゃめなところもグッド、「ヘイチャーリー!」


絶望的に不作揃いのこの夏、唯一の傑作映画


この映画にレッテルを貼るとすると、イギリス発の低予算B級ホラーだ。

基本的にはホラー映画マニア以外に誰も観ない映画であろう。事実、始まった当初より一日二回上映、それが三週目には一日一回上映になり今にもその使命を終えようとしている。

しかしこの映画こそが、駄作揃いの今年の夏映画の中で唯一の傑作とよべる映画である。

名前の通った俳優など出ていないし、派手なCGなど何もない、しかしこれがまた信じられないくらいにおもしろいのである。


お肌も曲がり角にさしかかった20代後半の女性達が、友情を深めるために企画した洞窟探検。しかしその洞窟の暗闇の中で恐るべき事態が彼女達を待ち受けているのだった・・・。


ストーリーからしてBテイスト満載だし、中身も基本的にはクリーチャーものショッキングホラーだ。しかし若者グループががぶがぶと怪物に食べられるだけの映画とは一線を画すできである。普通のホラーはクリチャーあっての人間だが、この「ディセント」は人間あってのクリチャーで、主題はあくまで人間であり、極限状況が作り出す人間関係の崩壊の姿が美しく表現されている。そして結局一番恐いのはクリチャーよりも人間だという姿勢にほれぼれとさせられる。

また、ストーリーのまとまりが非常によくできていて、人間関係を描く前半部分とその崩壊を描く後半部分のコントラストがこの映画を素晴らしいものにしている。


しかしまぁ、こういってはなんだが、あくまでB級ホラーの中での傑作であるので、そのことは忘れないで欲しい。アホな学生が迷い込んだ森の中で怪物に食べられるというような話が横行しているB級ホラー界で、その古典的ルールを守りながらも意外性に満ちた展開で我々を楽しませてくれる映画という意味での傑作なのである。


とりあえず、ホラー好きの方にはなにがなんでもオススメの一品なので、是非観てもらいたい。ホラーとしては五つ☆をあげてもいい。